赤毛のアンの10巻は、アンの娘リラの物語です。
物語の中で、その頃起こった第一次世界大戦のことが長々と描かれており、アンの息子であるウォルター、ジェム、シャーリーの3人もカナダからヨーロッパの戦争に出征していきます。
残った家族や町の人々がどのような気持ちで出征した息子たちを待っていたかということが、細やかなタッチで描かれており、作者であるモンゴメリーの戦争体験が本の中から伝わってきます。
本の中では、ジェムがかわいがっていた犬のマンデイが、戦争が終わるまでの4年間を駅で待ち続ける姿も描かれており、涙をさそうものがあります。
第1次世界大戦は、ドイツ・オーストリア・ブルガリア・トルコの同盟国とイギリス・フランス・ロシアの連合国の間の戦争ですが、後にアメリカ・イタリアが連合国側として参戦しています。また日本も直接的ではないにしろ、当時の日英同盟のこともあり、連合国側として参戦しています。
赤毛のアンの舞台はカナダですが、カナダもイギリスと深い関係にあったため、多くの兵士がヨーロッパに出征したようです。
第1次世界大戦は、1914年~1918年の5年に及ぶ戦争で、900万人以上の兵士が亡くなった戦争です。
戦争自体が小説として描かれることは多いのですが、待つ側の人々も同じように戦っているということを描いているところにこの小説の深い意味があると思います。
NHKの朝ドラの「花子とアン」の中でも、白蓮の息子が出征して、その後戦死する物語が描かれていましたが、アンの息子であるウォルターもヨーロッパ戦線で戦死することになります。
ウォルターは子供の頃から詩を書くことが好きな子供でした。昔は今と違って、西洋では詩を書いたり、詩を人前で朗読したりすることが日常で行われていたようです。
日本で言えば、俳句や短歌のようなものだと思います。
ウォルターは、戦場で死ぬ前の晩に妹のリラに手紙を書きます。その手紙の中の一節に以下のような文章があります。
リラ。危険に瀕しているのは僕の愛する海から生まれた小さな島の運命ばかりではない。カナダや英国の運命ばかりでもない。人類の運命なのだ。そのためにわれわれは闘っているのだ。そしてわれわれは勝つだろう。そのことは一瞬たりとも疑ってはならないよ、リラ。なぜなら、闘っているのは生きている者ばかりではない。死んだ者たちも闘っているからだ。
(中略)
君は子供たちにわれわれがそのために闘って死んだ理念を教えるだろう。その理念はそのために死ななければならないと同時に、そのために生きなければならないこと、そうでないとそのために払った犠牲が無駄になるということを子供たちに教えてくれたまえ。これは君の役目だよ、リラ。
村岡花子さんも、戦時から戦後に赤毛のアンの翻訳をしながら、戦争で死んでいった人々の気持ちや、待っている人々の気持ちを後世の子供たちに伝えることに意味があると考えていたのではないでしょうか。
今年2015年は、第二次世界大戦終結から70年を迎えます。日本のみならず、まわりの多くの国や人々が巻き込まれた戦争のことをじっくりと考えて、未来に向けて正しい選択をする年になってほしいと切に願います。
ヒューマン話し方教室 スタッフより